けんぱち研究会
以下は、5月号掲載の日遊協連載の抜粋(4月15日脱稿)にその後のコンプガチャ規制の展開を少し付け足して書いたものです。
・・・・・さて、ソーシャルゲームの躍進を支えているのは報酬依存性や損害回避性の満たしやすさだけではありません。ゲームには明確なゴールがあり、守るべきルールがはっきりしています。しかもプレイヤーの今の状態を正しく伝えるフィードバックシステムがあるためにやる気や意欲が持続しやすく、また現実以上に手ごたえのある自己成長感を獲得できるのです(9)。「いい」ゲームはドーパミン神経を効率よく刺激するのです。それを加速しているのがアイテム課金方式とその「くじ」化、確率化です。
従来のゲームは月額などの定額制でした。しかしソーシャルゲームの多くは参加無料でユーザーのすそ野を広げ、代わりにゲーム内アイテムに課金しています。課金されるアイテム、ゲーム内のバトルや狩り、謎解きや課題解決などのクエストで入手できるもの以上に性能が高いアイテムであったり、ゲーム内では手に入りにくい、あるいは絶対に手に入らないレアなアイテムであったり、キャラクターの服装や髪型など見た目を変えるアバター関連アイテム、ファッションアイテムであったり、経験値獲得効率がアップするアイテムであったりと、ゲームをしていればぜひ手に入れたいアイテムです。そう設計するのがクリエイターの腕です。
そしてプレイヤーは、現金、電子マネー、プリペイドカードなどでポイントを購入し、このポイントでアイテムをゲットします。あるいはこのポイントでアイテムくじを購入します。そうすると当然のことながら、レアアイテムを現金で売り買いする「リアルマネートレード問題」が出てきます。
たとえば、グリーの「探検ドリランド」はプレイヤーがさまざまな効力を持つ「ハンターカード(アイテム)」を駆使してお宝を集めるゲームですが、今年の2月、カードを不正に複製できるバグがユーザーによって発見され、入手困難なレアカードを複製して「Yahoo!オークション」などに出品する事態が発生しました。数万から数十万位なったカードもあったそうで、アイテム課金が潜在的に持つ換金性に注目が集まりました。グリーの発表はこの事態を受けての自主規制でもあります。
注目すべきはアイテムくじです。「ガチャ」です。「ガチャ」という名前は、スーパーのゲームコーナーや100円ショップなどの入り口においてある「ガチャガチャ」に由来します。あれがソーシャルゲーム内にあってアイテムくじを手に入れれば「ガチャ」が出来、当たればレアアイテムが出てくるわけです。
この連載ですでに紹介しているように、報酬を確率的に与えると(ギャンブル課題化すると)、やる気や意欲にかかわる脳の線条体におけるドーパミン神経の活動が大きくなり(5,6,7,8)、その行動が繰り返されやすくなります(強化学習)。たとえば予告信号が出てから報酬が出る場合、腹側被蓋から快感の中枢、側坐核(腹側線条体)に向かうドーパミン神経のI型(52%)は報酬によって活動し、また予告信号でも活動しますが、得られるはずの報酬が得られなければでは活動しません。つまり予告でドキドキし、期待を越えた結果で興奮、期待外れでがっかりする報酬誤差をⅠ型が表現します。一方、II型(31%)は予告信号と報酬の間でドーパミン神経の活動を高めます。つまり予告から結果までの期待感を表現しています(報酬期待)。III型(18%)は逆に期待感を低くする調整をします。こうやってドーパミン神経によって予測の快、結果待ちの快、結果の快が表現され強化学習が行われるのです(10)。
文献
1)グリー株式会社HP:グリー、利用環境向上に関する施策を導入・実施~未成年ユーザーの利用制限、ユーザー保護の充実・強化施策等を導入~
2)グリー株式会社HP:グリー、リアル・マネー・トレード専門事業者等へ申し入れ~「GREE」関連の出品の停止と削除を要請~
3)INTERNET Watch (増田 覚) 2012/3/30 13:38
4)Cloninger CR, Svrakic DM, Przybeck TR. A psychobiological model of temperament and character. Gen Psychiatry.1993 Dec;50(12):975-90
5)Schultz W. The Reward Signal of Midbrain Dopamine Neurons. Physiology December 1999 vol. 14 no. 6 249-255.
6)Fiorillo CD, Tobler PN, Schultz W. Discrete coding of reward probability and uncertainty by dopamine neurons. Science. 2003 Mar 21;299(5614):1898-902.
7)Schultz W, Preuschoff K, Camerer C, Hsu M, Fiorillo CD, Tobler PN, Bossaerts P. Explicit neural signals reflecting reward uncertainty. Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci. 2008 Dec 12;363(1511):3801-11.
8)Preuschoff K, Bossaerts P, Quartz SR. Neural differentiation of expected reward and risk in human subcortical structures. Neuron. 2006 Aug 3;51(3):381-90.
9)「幸せな未来は「ゲーム」がツクル」ジェイン・マクゴニガル(早川書房2011)
10)Cohen JY, Haesler S, Vong L, Lowell BB, Uchida N, Neuron-type-specific signals for reward and punishment in the ventral tegmental area. Nature. 2012 Jan 18;482(7383):85-8. doi: 10.1038/nature10754.
諏訪東京理科大学 篠原菊紀教授のブログより(2012年)