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けんぱちコラム
2012.07.30

005「コンプガチャに限らずよくできたゲームの仕組みはドーパミン神経を効率よく刺激します。②」

ソーシャルゲームには「コンプガチャ」といって、手に入れたカードなどのレアアイテムが数種そろうとコンプリート(完成)する、昔のビックリマンチョコのような仕組みが組み込まれています。
この仕組みでは強化学習がよりすすみます。
最初は比較的簡単に手に入るレアカードが、手に入れるごとに残りのレアカードが出る確率が小さくなり、完成へ近づくことで報酬期待を高めながら、手に入りにくいことで渇望感をより強め、ドーパミン神経の活動をさらに大きくするからです。また、期間限定アイテム、ある期間で当たり確率が○○%アップなどの工夫もドーパミン神経の活動を高めます。

 ・・・・と4月15日に入稿したのですが、5月5日に、消費者庁はコンプガチャは景品表示法で禁じる懸賞にあたると判断して注意を喚起し、ゲーム会社が中止しない場合は、景品表示法違反で措置命令を出すとの報道じられ、これを受けて5月7日の株式市場でグリー、DeNAなどのソーシャゲーム関連株がストップ安となり、ソーシャルネットワークサービス関連株も暴落しました。5月5日の段階で消費者庁がどこまでの判断をしていたのかは不明な点も多いのですが、コンプガチャ禁止の方向は確かなようです。
そしてその理由のひとつが「射幸心をあおる」。
ドーパミン神経を効率よく刺激して過剰な金銭消費を促す可能性をそう呼ぶのなら、その通りでしょう。

・・・・ソーシャルゲームにせよ、ぱちんこにせよ、確率的な「強化学習」がその躍進を支えていますから、その躍進は依存問題や「勤労その他正当な原因によるのでなく、単なる偶然の事情により財物の獲得を僥倖せんと相争うがごときは、国民をして怠惰浪費の弊風を生ぜしめ、健康で文化的な社会の基礎をなす勤労の美風を害する」という最高裁判所昭和25年11月22日判示にぶちあたる可能性をはらむのです(もちろん、この勤労観がおかしく、現実世界こそハラハラドキドキでき、目標達成感があるように修復!すべきだという「幸せな未来は「ゲーム」が創る」ジェイン・マクゴニガル(早川書房2011)的なロジックも可能ですが)。

 だからこそ、ソーシャルゲームでは冒頭のような自主規制やリアルマネートレードの禁止を打ちださざるを得ないわけですし、消費者庁などもコンプガチャの規制やさらなる規制を視野に入れていくわけです。
また、ぱちんこでは18歳未満が禁止だったり、射幸性の高い機種の規制が行われたり、広告規制の厳格化が行われるたりするわけです。
そしてどちらの業界もすぐれた強化学習システムをつくり上げればつくりあげるほど、社会的な破綻がチェック項目の半数近くを占める依存症の予防対策がますます必要になるのです。特にリアルマネートレード問題を露骨に抱えているぱちんこ業界は、この連載で繰り返し主張しているように、依存症の一次二次予防(チェックリストの張り出しなど)をソーシャルゲーム以上にしっかり行っていく必要があるのです。

文献
1)グリー株式会社HP:
グリー、利用環境向上に関する施策を導入・実施~未成年ユーザーの利用制限、ユーザー保護の充実・強化施策等を導入~
2)グリー株式会社HP:グリー、リアル・マネー・トレード専門事業者等へ申し入れ~「GREE」関連の出品の停止と削除を要請~
3)INTERNET Watch (増田 覚) 2012/3/30 13:38
4)Cloninger CR, Svrakic DM, Przybeck TR. A psychobiological model of temperament and character. Gen Psychiatry.1993 Dec;50(12):975-90
5)Schultz W. The Reward Signal of Midbrain Dopamine Neurons.  Physiology December 1999 vol. 14 no. 6 249-255.
6)Fiorillo CD, Tobler PN, Schultz W. Discrete coding of reward probability and uncertainty by dopamine neurons. Science. 2003 Mar 21;299(5614):1898-902.
7)Schultz W, Preuschoff K, Camerer C, Hsu M, Fiorillo CD, Tobler PN, Bossaerts P. Explicit neural signals reflecting reward uncertainty. Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci. 2008 Dec 12;363(1511):3801-11.
8)Preuschoff K, Bossaerts P, Quartz SR. Neural differentiation of expected reward and risk in human subcortical structures. Neuron. 2006 Aug 3;51(3):381-90.
9)「幸せな未来は「ゲーム」がツクル」ジェイン・マクゴニガル(早川書房2011)
10)Cohen JY, Haesler S, Vong L, Lowell BB, Uchida N, Neuron-type-specific signals for reward and punishment in the ventral tegmental area. Nature. 2012 Jan 18;482(7383):85-8. doi: 10.1038/nature10754.

諏訪東京理科大学 篠原菊紀教授のブログより(2012年)

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