けんぱち研究会
依存には、アルコール、覚せい剤、コカイン、たばこなどの薬物依存、ギャンブル、買い物、摂食などの行為依存、さらにアルコール依存患者を支えることに依存など共依存に代表される関係依存などがあり、いずれも大枠では行動制御の障害で、大脳辺縁系、基底核などの報酬系(特にドーパミン神経系)および、皮質-基底核ループが強くかかわると考えられているが、薬物依存ですらその具体的なメカニズムが因果的に明らかになっているとは言えない。
たとえば、コカインでは、ドーパミン輸送体を抑制して中脳辺縁系のドーパミン量が著しく増加し、強化作用や初期神経適応作用が起きる。このプロセスには、細胞外ドーパミン量がグルタミン酸ニューロンの可塑性を増すことや、側坐核内の細胞外シグナル調整キナーゼ(ERK)のリン酸化が注目されており、NMDA受容体およびD1受容体に依存したシナプス増強や様々な行動適応に関係していると考えられている。しかし、この関係も、同定されたシナプスでの薬物誘発可塑性と行動間の因果関係としては確認されていなかった。
そこで、最近、ジュネーブ大のPascoliらはマウスを使いコカインの分子標的の同定を行ったうえで、光遺伝学的な手法を用いてその因果関係を示そうとした。
→Pascoli V, Turiault M, Lüscher C. Reversal of cocaine-evoked synaptic potentiation resets drug-induced adaptive behaviour. Nature. 2011 Dec 7;481(7379):71-5. doi: 10.1038/nature10709.
彼らは、コカインがD1受容体を発現する中型有棘ニューロン(D1R‐MSN)の興奮性伝達を増強することをまず示し、その増強がERKシグナル伝達を介しており、これがコカインを与えた動物でよく観察される運動過敏と並行することを明らかにした上で、皮質から側坐核へのD1R-MSN入力をin vivoで光遺伝学的に脱増強すると、通常の伝達が回復し運動過敏も消失することを確かめた。
つまり、D1R-MSNのコカインによる選択的シナプス増強によって、側坐核内でのMSNニューロン集団間の不均衡を生み運動過敏などが生み出されることが因果関係的に示すことに成功したわけだ。この結果は、コカイン誘発性のシナプス可塑性が解除できれば、薬物依存がもたらす行動変化を治療できる可能性を示し、脳深部刺激や経頭蓋磁気刺激などによる治療法の可能性も示しているそうだ。
で、ここから行為依存系に話を持っていかねばならない。そこでは個体の価値判断に基づく意思決定のみならず他者の意思決定モデルの学習過程と自己の価値判断の修正過程が含まれてくるわけで、なんか概略は想像できても上記レベル程度の具体的メカニズムの因果的解明は相当に、特にモデル動物がつくりにくい分、先は長い。人データからの推定でも、アンダーマイニング効果からやっぱりお金をかけることが。。。といけるのか、アンダーマイニング効果を逆に読んで内発的動機づけでの遊技は可能といけるのかなど、ああしたり、こうしたりの基礎実験が必要。またNIRSの計測体験からは金銭条件の影響はヘビーユーザーでもないので、マスデータとの整合性を勘案すればさあどっち。たばこ依存ですら実はニコチンで説明できる部分は小さいので、行為依存ではさらにさらに???
追加
前頭葉-線条体の異常が、覚醒剤依存者や慢性薬物乱用経験とその兄弟姉妹に共通に見つかったとか。依存の遺伝率の一端か? Abnormal brain structure implicated in stimulant drug addiction. Ersche KD, Jones PS, Williams GB, Turton AJ, Robbins TW, Bullmore ET. Science. 2012 Feb 3;335(6068):601-4.
諏訪東京理科大学 篠原菊紀教授のブログより(2012年)