けんぱち研究会
人の心の状態を理解することは、わたしたち人類が複雑な社会関係をつくり上げる上で決定的に重要なスキルです。 特にサービス業ではユーザーの心理の理解が基本中の基本スキルとなります。 この人の心の状態を理解するスキルは、心理学や脳科学では心の理論(セオリーオブマインド:ToM)と呼ばれるスキルですが、これをどうすれば育てられるかについては、自閉症スペクトラムの児童などでは比較的よく研究されていますが、大人に関してはほとんど研究されていません。
そこで、キッドらは5つの実験を実施し、純文学を読むことでノンフィクションに比べて、情動面で相手の気持ちを読む能力が高まり、大衆小説や何も読まない場合に比べて認知面で相手の気持ちを読む力が高まることを明らかにしました。純文学を読むことはToMを少なくとも一時的には高めてくれるわけです。キッドらによればそもそも芸術というものがToMに影響を与えうるのだそうです。 ホールスタッフに純文学をすすめるのはちょっとかっこいいスタッフ教育になるかもしれませんね。 出来れば電子書籍ではなく紙がよろしいかと思います。
わたしは、幕張メッセで行われたCEATEC(最先端IT・エレクトロニクス総合展)のJEITA(日本電子産業協会)のブースで、「どっちにするの?紙とデジタル」というテーマで二回ほどしゃべりました。 「気質と向き不向き」「計算間違いチェックでの紙の優位、脳活動の差」「プレゼンの手元資料がプリントアウトものとタブレットの場合の内容記憶の差、脳活動との関係」「紙とデジタル、向き不向きの簡単予測アンケート」といった内容でした。ここ二三年やってきた実験のざっくりまとめです。 結論的に言うと、計算ミスチェックでは紙の方が成績が良く計算に関連する頭頂連合野の活動が強かった、プレゼンテーションの資料がハンドアウトの場合と紙の場合では、紙の方が内容をよく記憶しており、ワーキングメモリに深くかかわる背外側前頭前野の活動が高かった。少なくとも現段階では紙の方が有効。ただし画像記憶型(アンケートでも脳活動でも)の人ではタブレットで紙と同等の成績を収めているので、タブレットでもOK。 おそらくポイントは体性感覚です。体性感覚はリアリティの根源ですから、触った感じがなければそのものの実在が感じられません。紙の時の体性感覚をタブレットでいかに実現するかが、タブレット側の今後の課題だと思います。この研究にご興味ある方はJEITA刊行物「どっちにするの紙とデジタル」↓をご覧ください。 http://www.jeita.or.jp/cgi-bin/public/detail.cgi?id=504&cateid=6
諏訪東京理科大学 篠原菊紀教授