けんぱち研究会
ワーキングメモリの力は、学力と同様、親の社会経済的地位(SES)や認知機能にかかわる遺伝要因の影響を
強く受けることが知られています。残念ながら遺伝の影響は大きく、家庭状況の影響もまた大きいのです。
さらに、子どものワーキングメモリの力は将来の職業、貯蓄、健康、肥満、犯罪などとかかわることが知られ、
ワーキングメモリにかかわる遺伝要因と社会経済的地位は相互にかかわって高まっていく可能性をはらみます。
一方で、学校教育によってワーキングメモリの力が伸びることが知られています。算数でも国語でも、どんな
科目でもその学習にはワーキングメモリの力をつかっており、だから学校での学習はワーキングメモリを鍛え
るのです。
しかし、学校教育、社会経済的地位、遺伝がそれぞれどのようにワーキングメモリの力に影響を与えるかは、
よくわかっていませんでした。そこで、アムステルダム自由大学のSauce氏らは、アメリカのABCDデータ
セットという認知機能や遺伝要因、社会経済的地位、教育歴、成績などを蓄積しているデータベースを使って、
6567人の9~11歳を調べました。
その結果、ワーキングメモリの力に与える影響は、「1年の加齢」(歳を重ねるだけでもワーキングメモリの力
は伸びます)<認知関連遺伝要因<1年の教育<社会経済的地位、の順でした。
そして、二年の教育は、認知関連遺伝要因も社会経済的地位もしのぐことが明らかになりました。
学校のワーキングメモリを鍛える力はばかにならないのです。
Schooling substantially improves intelligence, but neither lessens nor widens the impacts of
socioeconomics and genetics
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36522329/
公立諏訪東京理科大学 篠原菊紀教授