けんぱち研究会
眠りにつく直前の記憶が記録されにくい、あるいは全く記録されない現象を「入眠前健忘」といいます。
入眠前健忘は、人が眠りに落ちるときにはほぼ経験する自然な現象です。
なぜ入眠前健忘がおきるかというと、十分にわかっているわけではないですが、新しい記憶を作るのに
関係する海馬の働きが低下するから、という説明がよく使われます。
みなさんの脳の下の方の奥に、小指くらいの大きさで左右にひとつずつ海馬という脳の器官があります。
この海馬には視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚などの情報が流れ込み、これらをまとめ、時間の情報も
くっつけて神経細胞のつながりを作ります。このような神経細胞同士のつながりが記憶です。
海馬で記憶のつながりができるとき、前頭前野というおでこのあたりの脳にも神経細胞同士のつながり、
記憶ができます。最初は海馬でのつながりがよく活動していますが、徐々に前頭前野に活動がうつり、
長く保存される記憶になっていきます。
眠りに入る初期段階では、睡眠を促す物質、メラトニンやGABAなどの影響で海馬の活動が低下していき
ます。海馬の働きが低下すると記憶が作りにくくなり、寝る直前の記憶があいまい、あるいは無い、という
ことがおきます。また、前頭前野での神経細胞のつながりは、自分は何を覚えているかのインデックス、
索引、目次のような役割も果たしていますが、このインデックスが出来上がらず、寝る前におきたことを
記憶したという自覚もできません。
加えて、海馬には情報を重要かどうか分けていく、フィルターの働きがあります。
何でもかんでも記憶するのではなく、重要な情報を仕分けして記憶するのです。
そして、寝ている間に重要な情報は記憶し、余計な情報は捨てていきます。
このフィルターの働きも入眠頃には低下するので、寝る直前の記憶を重要だととらえ記憶していくという
ことも起きなくなります。
公立諏訪東京理科大学 篠原菊紀教授