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けんぱちコラム
2025.07.22

169.ギャンブリング障害と遺伝の関係、その①

《ギャンブリング障害と遺伝の関係、その①》
今回のコラムから数回に分けて、「ギャンブリング障害と遺伝の関係」について紹介していきます。

背景
ギャンブリング障害(Gambling Disorder, GD)は、アメリカ精神医学会のDSM-5TRで「行動嗜癖」
に分類されている障害であり、個人や社会に深刻な影響を及ぼしますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。
WHOのICD-11では、ギャンブリング障害は、
1,ギャンブル行動のコントロールが障害されている、
2,ギャンブリング行動の最優先、
3,不利な出来事が起きているにもかかわらずギャンブル行動が継続拡大、
この三つがすべてそろった状態が継続しており、かつ、生活のだいじな領域で重大な障害や顕著な
苦痛が生じている状態を指します(https://icd.who.int/browse/2025-01/mms/en#1041487064 )。

日本では、ギャンブリング障害をギャンブル行動症と訳します。
gamblingは「~ing」、つまりギャンブルの仕方、「行動」の問題だからです。
ギャンブル依存症といってしまうと、「ギャンブルだけが問題」「やめればそれでいい」という
ニュアンスが含まれがちですが、ギャンブルの仕方に問題があり、そのことで生活上の重大な障害や
苦痛が生じている、むしろその生活障害こそが問題なのです。
精神障害一般がそうですが、その緩和や軽減が支援の中心です。
不安障害を伴う人に不安になるなという支援はあり得ません。

日本では法律用語がギャンブル等依存症となっているので致し方ありませんが、gambling disorderと
ギャンブル依存症とではニュアンスが違ってしまっている点には注意が必要です。とくに「障害」という
言葉は、バリアフリー、周囲や制度の変化も求める言葉である点に留意しましょう。
「病気」は治療によって治せばいい、「障害」は周囲や社会の変化も求めるのです。
ですから、わたしはギャンブル行動「症」という邦訳も適切とは思っていません。
ギャンブリング障害のママが良いと思っています。

WHOの定義でいえば、ギャンブル行動のコントロールが障害されている、ギャンブリング行動の最優先、
不利な出来事が起きているにもかかわらずギャンブル行動が継続拡大、だけでは、ギャンブリング障害
とは言えません。生活上の重大な障害や苦痛が生じていて初めてギャンブリング障害です。
だから、その対応は、ギャンブリングをどうするかだけではなく、生活上の重大な障害や苦痛への対応
こそ重要です。ギャンブル等依存症と呼んでしまうと、ここが見えなくなってしまいます。
ギャンブル行動症も同様です。

さて、ギャンブリング障害は、しばしば他の精神疾患(気分障害、不安障害、物質・アルコール使用障害、
衝動制御障害など)を併発しやすいことが知られていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。
だからこそアセスメントは大切ですし、ギャンブリングの問題だけへの対処ではいけないのです。

近年(特に2020年以降)、ギャンブリング障害の遺伝的素因に注目した研究が活発化しており、
その結果から見ても、遺伝要因を無視して、ただ断ギャンブリングを目指す支援の問題点を明らかにしています。

次回、ギャンブリング障害の遺伝的素因に注目した研究を概観します。

公立諏訪東京理科大学 篠原菊紀教授

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