けんぱち研究会
《ギャンブリング障害と遺伝の関係、その④》
※前回のコラムの続きです。
遺伝要因と環境要因の相互作用
ギャンブリング障害は遺伝と環境の双方の影響で発症すると考えられます。
前述の通り、遺伝要因がリスクの約半分を占めますが、残りの半分は環境要因によって
説明されますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。
特に非共有環境要因(同じ家庭内で共有されない個人固有の環境要因)の寄与が大きく、
幼少期の家庭環境など共有環境の影響は統計的に有意ではないと示されていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。
これは、人生における偶発的な経験やストレス(例:失業、人間関係のトラブル、予期せぬ
事故やトラウマなど)が、遺伝的素因を持つ個人においてギャンブリング障害発症の引き金と
なりうることを示唆します。
実際、問題ギャンブラーの集団では幼少期の虐待経験や成人期の重度のストレスイベント
(家庭内暴力、離婚、失職、ホームレス経験など)の有病率が高いことが報告されており
southpacificprivate.com.au、こうした環境ストレス要因がギャンブリング問題の発症・悪化に
寄与している可能性があります。
もちろん「トラウマがある全ての人がギャンブリング障害になる」わけではありませんが、
遺伝的リスクを持つ人が環境要因にさらされると発症確率が高まるという、いわゆる
遺伝–環境交互作用が想定されます。
また、併存する精神疾患との相互作用も重要です。ギャンブリング障害はうつ病や不安障害、
物質乱用などと高い併存率を示しますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。
例えば、ギャンブリング障害患者の多くは抑うつ症状やアルコール依存などを合併し、これらが
互いに症状を悪化させ合うケースも少なくありません。
遺伝学的視点から見ると、ギャンブリング障害と他の精神疾患との間には共通の遺伝的素因も
存在します。双生児研究に基づく解析では、ギャンブリング障害とアルコール使用障害の遺伝的
相関は0.7にも達するとの報告があり、反社会的行動障害や気分障害とも有意な遺伝的重複が
示されていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。
これは、ギャンブリング障害に陥りやすい遺伝的素因を持つ人は、アルコール使用障害や衝動性の
高い人格傾向、情緒不安定さなど他の問題にも陥りやすい下地を部分的に共有していることを
意味しますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。
一方で、併存するうつ病や不安症などの環境的影響も無視できません
(例:抑うつ状態の苦痛から逃れるためにギャンブルにのめり込む、逆にギャンブルによる経済的・
社会的破綻がストレスとなり抑うつ症状が悪化する、など)。
このように遺伝と環境(精神疾患を含む)の複合的な相互作用がギャンブリング障害の発症リスクや
経過に影響すると考えられており、最近の研究では遺伝子多型と心理社会的要因を統合的に解析する
試みもなされています。例えば構造方程式モデリングによる解析では、特定のリスク遺伝子多型の
存在がギャンブリング障害の重症度を高める一方で、その影響の一部は性別や年齢、人格特性などの
心理社会的要因によって媒介(仲介)されることが示唆されていますmdpi.com。
この結果は、遺伝要因が他の環境要因と相互に作用しあって病態に寄与していることを支持する
ものであり、ギャンブリング障害のリスク評価や介入において生物学的・環境的要因を包括的に
考慮する重要性を示していますmdpi.com。
公立諏訪東京理科大学 篠原菊紀教授